シームレスダウンのクリーニングについて
2025.04.25
皆さんこんにちは。PROSHOP HIRAISHIYAです。
様々なブランドで販売しているダウンにはたくさんの種類があります。使われている素材が違ったり、縫製方法が違ったり、ダウンによって特徴も異なります。
素材の特性上、避けることのできない現象やトラブルも存在します。その代表的な例が「ポリウレタン樹脂が使用されたシームレス加工」です。
素材の特性によって生じる変化に悩まれるお客様も多く、クリーニング業界としても取り扱いに注意が必要な「シームレス加工」。
本日は、このシームレス加工について実例をもとに詳しく解説していきます。
目次
1.シームレスダウンとは?
まず、シームレス加工が施されたダウンがどういったものかをご存じでしょうか?
シームレスダウンを見てみると、ダウン本体に縫い目がなくテープで貼ったような線が見えます。これがシームレス加工というものです。

このシームレス加工というのは、ポリウレタン樹脂によって生地同士を貼り合わせることを指します。シームレス加工は、様々な名称で呼ばれることがあり、このほかにも「圧着加工」「ノンステッチ加工」と表現されることもあります。
ダウンは、表地と裏地を縫い合わせながらブロック分けをしてダウンを充填する、というのが一般的です。あえて縫い合わせない方法で作られているということには理由があります。
それが高い保温性です。従来の仕切りは縫製によって作られているため、針を通すことでどうしても小さい穴が出来てしまいます。はじめはわずかな大きさの穴ですが、着用しているうちに少しずつ広がっていきます。目で見る分には大差ないかもしれませんが、そのわずかな隙間を羽毛は通ってきてしまいます。これによって徐々に羽毛が飛び出し、ダウン本体のボリュームが減ってしまいます。このサイクルが続くことによってダウンの保温機能の低下が顕著になります。
シームレス加工の場合、そもそもこの縫製の工程がないため、ダウンから羽毛が飛び出してしまうリスクを低下させることが出来ます。これによって高い保温性を維持することが可能となるのです。
2.シームレスダウンは何年着られるのか
一般的に、シームレスダウンは寿命が短いとされています。ここからはその理由やおおよその寿命について解説をしていきます。
2-1.「シームレスの寿命は3年」とされる理由
まず、シームレス加工に使用されているポリウレタン樹脂は「必ず」劣化する素材です。
この劣化する理由は、空気中の水分や熱や紫外線というような生活するうえで避けることのできない環境の中で少しずつ成分が分解されるため、です。
特殊な溶剤の成分や、強力な物理的圧力によって分解される、というわけではありません。ごく当たり前の生活環境下で成分の分解が進みます。そのためどのシームレスダウンにも等しく起こりうる現象ということです。
そして、この現象によって樹脂が分解され剥がれたりひび割れが生じるまでに、おおよそ3年かかります。これがいわゆるシームレスダウンの寿命です。
注意が必要なポイントは、ポリウレタン樹脂の劣化が始まるタイミングです。シームレスダウンの剥離に悩むお客様の中には、
「買ってからまだ1年くらいしか着ていないのに…」
とがっかりされる方もいらっしゃいますが、ここが大きな落とし穴です。
ポリウレタン樹脂の劣化は、【製造時】から始まっています。購入日をベースに起算してしまうと、シームレスの劣化のタイミングの認識に大きなズレが生じてしまいます。
購入したダウンが製造から間もないダウンとは限りません。店舗の在庫として1~2年置かれていれば、その間も当然劣化は進んでいます。そのため購入して1年前後で剥離やひび割れが生じてしまうリスクは大いにあるのです。

2-2.シームレスの剥離は防げるのか
前述したように、生活するうえで避けることのできない環境の中で少しずつ成分が分解されていくため、劣化を100%回避することはできません。
これはポリウレタン樹脂の特性によるもののため、遅かれ早かれ起こる現象です。
紫外線を避けて日陰で保管する、湿度が上がりすぎないようこまめに収納内の空気を入れ替えるなど、ダウンのお手入れについて簡単な対策をすることはできるものの、完全な劣化の予防にはつながりません。
シームレスダウンはトレードオフの関係にあります。一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状態・関係のことを意味し、二律背反と表現することもあります。
シームレス加工の場合、樹脂の圧着で縫い目を無くすことで機能性の向上を図ったものの、経年劣化する樹脂を用いている為、縫製されているダウンと比べてどうしても耐久性が劣ってしまいます。
3.シームレスダウンをクリーニングするとどうなるのか
3-1.シームレスダウンをクリーニングするときの注意点
シームレスダウンは、どのダウンでも等しくポリウレタン樹脂の剥がれやひび割れが生じるリスクがあり、クリーニング後に剥離が発生する可能性も十分にあり得ます。
そのため「クリーニングによって剥がれた。」と感じられてしまうかもしれません。しかし、使用している素材(ポリウレタン)の特性を鑑みると、圧着部分の剥がれは製品の特性によるもので、本質的にはクリーニングが主原因ではないということを、ご理解いただきたいです。
前述したような様々な環境や状態が、複雑にかつ複数起因しあうことで、ひび割れや剥離が発生しています。クリーニングをおこなったからといって必ず剥離が生じるとも、生じないとも言い切ることが出来ないのが、シームレス素材の難しいところなのです。
クリーニングをおこなうにも、リスクと隣り合わせの素材であることをご了承いただくとともに、依頼の際には、お手持ちのダウンの状態についての今一度ご確認いただけますと幸いです。
3-2.PROSHOP HIRAISHIYAの場合
PROSHOP HIRAISHIYAでは、ダウンが到着したのち1着ずつ検品作業をおこなっています。その際、シームレスダウンであることが確認された場合、お見積書の中にシームレス剥離のリスクについて記載させていただいております。また、クリーニング前の段階で既に広範囲にわたって樹脂の剥離が見られる場合には、クリーニング自体をお断りさせていただく場合もございます。
万が一、ご注文前に作業の可否やリスクについて知りたいという場合には、公式ホームページ内にあります無料カウンセリングフォームより、お問い合わせください。こちらのフォームは画像の添付も可能となっております。剥離部分等のお写真を添付いただくことで、より詳しく状況を確認することが出来るので、ぜひご活用ください。
これらの事情を踏まえたうえで、ご納得いただけましたらご注文の受付となります。万が一作業完了後に樹脂の剥離がした場合でも、弊社での保証等は致しかねますことをご理解とご了承の程よろしくお願いいたします。
3-3.シームレスダウンの経年劣化の事例
ここからは実際にダウンクリーニングをおこなったシームレスダウンの状態をご覧いただきながら解説をしていきます。
こちらは弊社でクリーニングをおこなった水沢ダウンです。
水沢ダウンのほとんどは、シームレス加工が施されたダウンです。胴体、腕の部分のブロック(仕切り)にシームレス加工が使われています。
左が受付時のダウン、右がクリーニング後のダウンです。


クリーニング後の状態を見てみると、大きく見た目が変化しているのがわかります。表面に張り付けられていたテープの剥離によって、ダウン胴体・袖部分のブロックがなくなっていることが確認できます。また、正面のファスナー周りにつけられていたテープも剥がれてしまっています。
これはいずれもポリウレタン樹脂の劣化によるものです。このシームレス加工(樹脂による仕切り)がなくなると、ダウンが下に沈んでしまいます。羽毛の偏りによって均等に暖かさを維持することが出来なくなってしまうと、ダウンジャケットとしての機能面に大きく影響を及ぼしてしまいます。
3-4.ボンディング加工
もう一つ、ポリウレタン樹脂の劣化によって生じる現象として、「ボンディング加工」の剥がれがあります。ボンディング加工というのは生地Aと生地Bをポリウレタン樹脂で貼り合わせた加工のことです。こちらもシームレス加工同様、経年劣化によって生地の見た目に変化を及ぼします。
経年劣化が進むと樹脂の接着が弱まり、生地が徐々に剥がれていきます。表面がポコポコとしてくることが特徴です。これは劣化によって剥がれた生地の間に空気が入ってしまっている状態です。
先ほどご覧いただいたダウンも、ボンディング加工の剥がれが生じてしまいました。特にわかりやすい部分のお写真がこちらです。

こちらの現象も、シームレス加工同様に発生のタイミングは予測が難しく、防ぐことのできないものとなります。
お預かりしたダウンでこのような現象が見られた場合、PROSHOP HIRAISHIYAでは仕上げの際、できる限りしわを伸ばした状態で梱包・発送をおこなっておりますが、ボンディング加工の復元は困難であることをご了承くださいませ。
4.まとめ
本日はシームレスダウンのクリーニングについて解説をしてきました。
高級ブランドダウンをはじめ、ユニクロなどのアパレルチェーン店でも様々なシームレスダウンが登場しています。この記事を読まれている方の中にはシームレスダウンの購入を検討されている方もいらっしゃるのではないかと思います。
ここまでのお話で誤認いただきたくないのが、シームレスダウンは非常に性能の優れたダウンであるということです。本章でもお話したように、保温性の高さが特徴であり、これはまさにダウンとして欠かせない機能です。そして経年劣化によって樹脂の剥離が起こってしまう、ということも特徴・特性の一つです。
これらの特徴を理解し、うまく付き合いながらメンテナンスをしていくことで、より長く着続けファッションを楽しむことが出来ると考えております。
シームレスダウンをクリーニングを出される際には、こういった現象が起こりうる可能性があるということも踏まえたうえでご利用いただきますよう、よろしくお願いいたします。
今回の記事の内容等含め、ご不明・ご不安な点がある場合にはぜひ、お気軽にPROSHOP HIRAISHIYAにご相談ください。
PROSHOP HIRAISHIYAでは、モンクレールをはじめとする高級ブランドダウンのクリーニング取り扱い実績が50万着以上あります。それぞれの素材や汚れの特性を踏まえながら最適な方法でクリーニングやシミ抜きをおこなっております。注文方法や現在のダウンについてご不安な部分、クリーニングの内容について確認したいことがある場合は無料カウンセリングや電話注文も承っておりますので、下記リンクよりお気軽にお問い合わせくださいませ。SNSやホームページにてクリーニング中の様子やダウンクリーニングと併せてオススメしているオプションの紹介なども行っておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
また、多くのお客様にネット注文をご利用いただいております。ご自宅でスマホやパソコンから必要な情報をご入力いただきますと、注文完了となります。集荷日時をご指定いただければ、ヤマト運輸さんが、梱包用の段ボールを持参してお客様のご自宅まで引き取りに伺います。弊社到着後、作業中の進捗状況等はメールにて都度ご案内させていただいております。また、仕上がり後のダウンもヤマト運輸さんより配送されます。ご自宅で注文から受け取りまでの一連の作業が完結できるシステムとなっております。
注文後の流れについて、わかりやすく説明させていただいた動画がこちらになります。是非合わせてご覧ください。
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