ダウンの素材とクリーニングについて

2023.11.06

常に新しいデザインが登場し続けるファッション業界。もちろん高級ダウンも例外ではありません。著名なデザイナーとのコラボデザインを発表したり、独特なカラーリングのモデルが登場したり、様々な素材を組みあわせたり、各ブランドが趣向を凝らしてファッションを盛り上げています。中には十数万着もクリーニングを行っている我々ですらまだお預かりしたことのないデザインも数多く存在します。

今回はダウンに使われている様々な素材の特徴について「クリーニング」と「染色」の観点からご紹介していきます。

1.ダウンに使われている生地の素材

衣類に使われる素材の種類は様々ですが、今回はダウンだけに絞りさらにブランドごとの特色も踏まえながらご紹介していきます。

1-1.ナイロン(nylon)

モンクレールやデュベティカなどの高級ブランドでも非常に多く使用されている素材がナイロンです。当社でお預かりするモンクレールダウンのほとんどもナイロンで作られています。ナイロンは摩擦に強く、伸びのある柔らかい素材です。比較的薄手で乾きやすいためダウンだけでなく登山用品などに多く使われる傾向があります。引っ張っても元に戻ろうとする力が強くシワになりにくいのも特徴です。また、化学繊維でできているので虫の食害にも合いにくいです。

1-2.ウール (wool) 

見た目からも暖かさを感じられる素材、ウールは、タトラスやモンクレールのダウンに多く使われています。保温性・保湿性に優れた素材で、伸縮性のある繊維なので厚手でも着やすいのが特徴です。シワになりにくく、繊維自体が油分を含んでいるので撥水効果もあります。発色の良い素材なので、セーターやストールなどのカラ―バリエーションに富んだアイテムが多く登場しますね。

1-3.ポリエステル(polyester)

ポリエステルは水が乾きやすく型崩れもしにくい素材です。ペットボトルと同じ原材料ポリエチレンテレフタレートが使われています。長期間外気に触れていても劣化しにくく、日焼けが起こりにくいです。ポリエステルはほかの繊維と組み合わせて使用されていることもあります。カナダグースのダウンはポリエステル85%、綿15%を組み合わせた生地が使用されています。

1-4.綿(cotton)

綿は帯電しにくく静電気が発生しづらい為、乾燥しやすい季節にも身に着けやすい素材です。肌触りがよく滑らかな風合いが特徴で、肌に直接触れるインナーなどによく使われています。5000年以上も前から使われています。近年は地球環境に配慮して農薬を使用せずに栽培された綿花を使用し、製品を作り上げるまでの過程で極力化学的処理を行わない「オーガニックコットン」を使用した製品も多く流通しています。

先ほどご紹介したポリエステルと綿の混紡素材を「T/C素材」と呼びます。ポリエステルが「T」(ポリエステルの略)、綿が「C」(綿=コットンの略)となります。ポリエステルなら頭文字は「P」ではないの?と思われるかもしれませんが、ポリエステルは昔「テトロン」と呼ばれておりその名残が残り、頭文字の「T」が使われています。

「T/C素材」のカナダグース

2.クリーニングを行う上での注意点

ダウンに使用されている素材についてご紹介してきました。続いてはそれぞれの素材のクリーニングを行う際の注意点について当社での実際の作業をもとにご紹介していきます。

2−1 PROSHOP HIRAISHIYAのダウンクリーニング

PROSHOP HIRAISHIYAのダウンクリーニングは「ウェットクリーニング」が基本です。これは汗や調味料・食べこぼしなどの汚れへのアプローチに適しているためです。これらの汚れは水溶性の汚れなので、「ドライクリーニング」ではなかなか落ちません。1シーズンだけの着用であってもダウンの中にどんどん汗や汚れが蓄積していきます。汗汚れはそのまま放っておいてしまうと後々頑固なシミになってしまいます。また、濃い色のダウンはなかなか汚れが目立ちにくく、食べこぼしなども気づきにくいですがにおいの原因になったり虫が発生する可能性もあるので、着用シーズンが過ぎたら速やかにクリーニングに出すことをオススメします。

2−2 全部ウェットクリーニング?

先ほどご紹介した素材の中には、「ウェットクリーニングが適さない素材」も当然あります。そういったものに関しては洗濯表示や素材の特徴を踏まえながら別の方法でクリーニングを行っていきます。

ウールは水洗いすると「フェルト化」してしまうため、ウェットクリーニングは適しません。ウールは繊維の構造上、水を含んだ状態で揉んだり物理的作用が加わったりすると繊維同士が絡み合って離れなくなってしまいます。これが毛羽立ちや縮みとなって現れます。このフェルト化は風合いにも影響してしまうもので、ゴワついて硬くなってしまいます。そして、フェルト化してしまったものは元の状態に戻すことはできません。柔軟剤などを用いて若干和らげることは可能ですが、完全にフェルト化する前の状態に戻す、という事は不可能です。

2-3.そのほかの素材のクリーニングも可能?

ここまで、よくお預かりするダウンの素材を中心にご紹介してきましたが、生地の素材の種類はほかにもいろいろあります。

中でも毛皮は非常に取り扱い方法が繊細なため注意が必要です。クリーニングにも多くの経験と知識を要するため、クリーニング店の中には断るお店もあります。PROSHOP HIRAISHIYAでは長年の経験を活かし、細心の注意を払いクリーニングを行っております。

袖口や襟元、ワッペンなどワンポイントに使用されている物、表面全体が牛革・羊革でつくられているもの、その他本体の生地ではなく襟・袖にファーがついている物など、ご依頼いただくダウンの種類も様々です。ファーなど取り外せるものは本体から取り外し、ダウン本体(ウェットクリーニング)とファー(ドライクリーニング)でそれぞれ分けてクリーニングを行います。

【ファークリーニングの様子】https://www.instagram.com/reel/CqjdSumjZXj/?igshid=NTc4MTIwNjQ2YQ==

3.生地の特徴と染色

生地の染色は、もともとのダウンの色や素材によっても色の出方や入りやすさなどに個体差があります。ここからは当社での「全体染め」の前後の様子を踏まえながらそれぞれの違いについてご紹介していきます。

3-1 黒から黒(その他同色から同色)への染色

長く着用していると、丈夫な繊維であっても色あせてきてしまいます。もともとの色味が薄くなってきてしまったり表面につけられていた色味が白んできてしまったりします。中でも多いのがカナダグースです。カナダグースのダウンは「白化」という袖口や脇の下などが摩擦によって色落ちしてしまう現象が起こります。これはカナダグースの公式ホームページ内でも取り扱い時の注意として掲載されています。なぜこういった現象が起こるのかというと、カナダグースのダウンはもともと白色の生地でその上からブラックやネイビーなどの色を乗せています。ポリエステルは結晶性が高い(密度が高い)繊維の為、繊維の隙間に染料が浸透しにくく、表面にしか染料が付着していない為、摩擦を繰り返してしまうと、表面の染料がはがれてきてしまうのです。

この現象は着用していくうえで避けることのできない現象です。着用していく中でものに触れやすい部分から白化が進んでいきます。広範囲で白化が起きてしまっている物に関しては同色での全体染めをオススメしています。カナダグースは特に白化が目立ちやすいブラックやネイビーなど濃い色のダウンのご依頼が多いです。

3-2 同系色での染色

当社で全体染めをご希望の場合、オススメしているのは「同系色」での染色です。さらにいえばもともとの色味がベージュ系統ならダークブラウン、ブルーやネイビー系なら濃いネイビーやブラックというような「同系色」の中でも濃い色での染色です。これは染色後の色味の出方はもともとのダウンの色味に影響するためです。

「同系色」とご案内しましたが、薄いお色味からブラックへの染色であればご希望通り染色が可能です。実際にブラックに染め変えたダウンがこちらになります。リブまわりやファスナー部分の生地はナイロンではない為、染まり具合に違いが出ています。右側のダウンは特に分かりやすく、ベージュから紫に染まっていますね。

ブラックに染め変えたダウン

先ほど、染色後の色味はもともとのダウンの色味に影響する、とご説明しました。これについて実際に作業を行う前と後の写真があります。

左:ベージュからブラックへ 右:ベージュからブラウンへ)

こちらのダウンはもともとベージュのダウンでしたが、それぞれブラック・ブラウンへの染色をご希望でした。それぞれの仕上がりを見てみると、どちらも若干緑がかっているような印象ですね。左のダウンはもともとの色味が明るく濃い色味だったこと、右のダウンは緑色に変色した部分があったことが、染色後の色味に影響しています。

このように元の色味が濃いものに対して近い色味で染めてしまうと、あまり色がきちんと入らなかったり色ムラになってしまう場合もあります。

4.モンクレールのクリーニングと染色

ここまで様々なブランドのダウンの染色などをご案内してきました。最後に当社で一番ご依頼の多いモンクレールを例にクリーニング・染色についてご紹介させていただきます。

4-1.モンクレールのクリーニング

当社ではウェットクリーニングを採用しており、モンクレールダウンも例外ではありません。襟元や袖口など汚れやすい箇所はあらかじめブラシにて重点的に汚れを落とします。直接汚れにアプローチすることで汚れ落ちがとてもよくなります。この時併せてモンクレールのロゴワッペンも洗っていきます。なかなか意識していないと気付きにくい部分ではありますが、腕についているロゴワッペンも長く着用していると徐々に黄ばんできますので、集中的に汚れを落としていきます。その後全体の洗い・すすぎ作業に入ります。すすぎに使った水はこんなに汚れています。蓄積した汚れの量とウェットクリーニングの汚れ落ちの良さがわかりますね。

モンクレールダウンを洗った後の水の様子

4-2.モンクレールの全体染め

PROSHOP HIRAISHIYAでモンクレールの全体染めを行う場合、ご注文の際に「オプション」のご選択がないダウンについては、画像にあるような付属のワッペンやラベルは外さずに染色を行います。(※ファーは外します)全体染めはダウンを丸ごと染料に漬け込む形となりますので、これらのモンクレールのロゴワッペンやラベルも指定した染料の色に染まります。それぞれ素材が異なりますので、色の入り方にもムラがあります。ポリエステル製の糸で縫われていればその部分だけ色が入らないこともありますし、アニメラベルもキャラクターが見えにくくなったりしてしまいます。

こういったラベルは染めずに残しておきたい、という方もたくさんいらっしゃいます。特にモンクレールならではのアニメラベルは染色に慎重になる方が多いです。このようなご要望にお応えするためご用意しているのが「付属品取り外しオプション」です。モンクレール全体染めご注文の際に、あらかじめ取り外してほしいワッペンがついている箇所をご指定下さい。

モンクレール 全体染めで染まってしまう付属品(ワッペンやラベル)

先ほど「3.生地の特徴と染色」でもご案内しましたが、袖口やファスナーまわりの生地は表地と違う生地が使われていることも多いです。載せているビフォーアフターのようにもともとのお色味によっては染まり具合に差が出ることがございます。こちらはモンクレールの生地であっても同様ですのでご注意ください。

5.まとめ

本日はダウンに使用されている生地(素材)の特徴について、そしてクリーニング・染色についてモンクレールダウンを例に挙げながらご紹介させていただきました。昨今テレビや雑誌、ネットなどで「自宅ダウンを洗濯できる」というような内容が取り上げられているのをよく目にしますが、ご紹介したように生地にも様々な種類がありそれぞれに特徴があります。なんとなくの理解で作業をしてしまうと、もう着られなくなってしまう恐れがあります。大切なダウンを長く使い続けるためにも、専門のお店で丁寧にお手入れをされることをオススメします。高級ダウンのモンクレールをはじめ様々なブランドのダウンのクリーニング・修理実績がございますので、安心してお任せください。

注文方法や現在のダウンについてご不安な部分、クリーニングの内容について確認したいことがある場合は無料カウンセリングや電話注文も承っておりますので、下記リンクよりお気軽にお問い合わせくださいませ。SNSやホームページにてクリーニング中の様子やクリーニングと併せてオススメしているオプションの紹介なども行っておりますので、ぜひ参考にご覧ください。

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    モンクレールとカナダグースのダウンクリーニング(洗濯~仕上げ)中の様子を社長のわたなべの解説付きで公開中。その他にもクリーニングについての情報やモンクレールの特徴など、クリーニングに関する役立つテーマが盛りだくさんです。

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